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<< 百日紅が咲いた main 詠範会の皆さんが無常御和讃のお唱え >>
東雲寺境内の桜と櫻龍会のことなど

 1997(平成9)年4月に東雲寺第二十一世重興秋芳能宣大和尚(柚木能宣、2017年6月18日寂、享年92歳)が出版した『東雲寺史』の「あとがき」に次のような文章がある。

 

   たしか明治の終わり頃と聞いて居りましたが、横参道の一部五十米程の道路の片側に櫻の木12、3本植樹してあり、昭和10年頃には見事に花を咲かせて多くの人の目を楽しませて呉れました。ところが戦後間もなく切りとられることになって了いました。私はその吉野櫻の花を忘れることができず、再び其の花の実現を夢見て昭和三十二年春、檀徒の広瀬由蔵翁にご寄進頂き、寺の地形に合わせてトランプのスペード型に植樹していただいたのが現在の櫻並木です。苗木を植えながら翁は「やがて『東雲寺吉野の櫻咲きにけり』となる」と即興的に一句ものされたのが印象的でした。それから何年か後に多くの方が爐気らめぐり瓩砲出で下さるようになりました。それからは例え数は少なくとも一年中どこかで何かの花が咲いていることを目標に花木を植えてきました。(後略)

 

  東雲寺の石段側に立つお地蔵さまの真向かいに6、70センチほどの記念碑があって、
    「昭和三十二年花まつりの日/吉野桜六十本/施主廣麝蛎◆薪山二十一世能宣代」
  と彫刻されている。これらによって東雲寺の桜が、ちょうど60年前に植えられたことが分かる。
  能宣東堂(東堂は引退した住職をさす言葉。前住職)は桜が好きだった。昭和50年代の初め、お花見の時季に東堂とその友人十数人が酒宴を開いた。客殿の玄関の明かりがかすかに届く場所で車座になり、宴もたけなわになると、渋い声の市川弘治さんが十八番を歌って皆が手拍子をとり、八木文雄さんが自慢の尺八を吹くなど、昔懐かしいスタイルの酒盛りだった。その頃の能宣東堂のレパートリーは、およそ酒宴に相応しいとは言えないような、たとえばシューベルトの『菩提樹』で「泉にそいてしげる菩提樹慕い行きてはうまし夢見つ」とか「匂い優しい白百合の濡れているよなあの瞳」の『北上夜曲』などだった。二十代半ばの私も何か歌うように言われ、ギターを引きながら加山雄三の『君といつまでも』を歌うようなこともあった。
  当時は照明もほとんどない暗い境内の桜を観ながらの宴だったし、この季節はけっこう寒い日が多く、次の年あたりからは客殿の中でのお花見になったように思う。そしてたぶん八木邦治さんあたりが言い出したのだろうと思うが、この花見の会に「櫻龍会」という名前がつけられた。「櫻」はもちろんお花見の桜のことで、「龍」は東雲寺の山号「龍谷山」の龍である。
  東雲寺のご近所で東堂の同級生や先輩後輩、内田宗助さん、広瀬幸作さん、八木松太郎さんなど極ごく親しい仲間たち十数名で発足、能宣東堂が会長になり、会員の皆さんとは三十歳ほど年齢差のある私も名簿の最後の方に会員登録された。ただ、翌々年あたりから、東堂が楽しみにしている気のおけない仲間たちの宴ということを思って、ゲストのような存在だった私は何か用事を作っては出席を遠慮するようにしていた。
  毎年恒例のお花見はずいぶん永く続いたし、今日現在も会は残っているようで、東堂の葬儀の折には櫻龍会として生花をお供えいただいた。
  櫻龍会のメンバー皆が元気なときには、毎年秋に静岡県や山梨県、長野県などの近県にバス旅行に出かけた。そういうとき、お食事処や旅館には歓迎の「櫻龍会御一行様」と書かれた名札が掛けられており、旅館の方たちなどが、何か危ない人たちが来ると勘違いして(確かに一見恐そうな顔の人もいた)、緊張気味に出迎えられたそうだ。しかし、その正体がお寺の住職と愉快なおじさんたちということが分かってホッとする様子が見て取れると、それを面白がって、帰宅後の土産話や思い出話の中で盛り上がっていた。
  櫻龍会の会員でお元気な方も数名おられるが、ここにお名前を挙げた方たちをはじめ会員の多くがすでに亡くなっている。能宣東堂は彼岸で久しぶりの再会を果たしていることと思う。



2017.08.21 Monday 18:49
東雲寺あれこれ comments(0)
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2017.09.21 Thursday 18:49
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